錘(シンカー)の素材 種類と特性、その毒性及び環境への影響 ~鉛の危険性を再確認~
今回は錘(シンカー)の素材についての話。
その種類と特性、さらに毒性及び環境への影響について、まとめてみます。
釣りではガン玉からナス型やダウンショット用、ジグヘッド、さらにはメタルジグや最近ではオモックまで、非常に多岐にわたって錘(シンカー)が使用されています。
昔はほぼ鉛のみでしたが、最近は様々な種類が出てきていますので、少し素材についてのまとめてみます。
目次
素材の種類
まず、シンカーの素材の種類についてですが、大きく分けると3種類
・鉛
・ブラス(黄銅/真鍮)
まずはそれぞれの特性から見ていきます
素材ごとの特性
鉛
一番一般的に使用されるシンカー
昔から利用されている
比重 11.3
融点(溶ける温度) 327℃
モース硬度 1.5
⇒爪で傷つくレベル
※モース硬度:硬さの違う鉱物を軟らかいものから1~10にランク付けし、それを使って傷が付くかどうかで判断される硬さの指標。10がダイヤモンド
利点
・軟らかいため、加工性に優れる
・安い
欠点
・軟らかいため、傷が付きやすい(根掛かりの際、岩に挟まりやすい)
・毒性がある(詳細は後述)
ブラス(黄銅/真鍮)
合金なので、銅と亜鉛の割合によって比重や硬さが変わる上、鉛等を混ぜることで加工性を良くしたものもある。
管楽器や五円玉の材料でもある。
比重 9前後
融点 900℃前後(配合比で変わる)
モース硬度 3~4程度(ナイフ等では傷が付くレベル)
利点
・鉛に比べると硬い
欠点
・比重が鉛に比べ軽い(沈み方が遅い)
タングステン
最近ジグやロックフィッシュノシンカーで注目の素材ですね
非常に高比重
融点 3422℃
モース硬度 9
⇒ダイヤモンドやクロム等の非常に硬いものでしか傷がつかない
利点
・非常に硬い(モース硬度9)
・比重が大きく、沈みが速い
欠点
・産出量が少なく高価
・融点が高く、硬度も高いため、加工性が悪い
とこんなところでしょうか。
それぞれの使い分けとかに関しては、結構どこにでも載ってますので、大手さんに任せます(エッ
では本題
それぞれの毒性
まずはSDS(セーフティーデータシート)から見てみましょう
※SDS:物質の危険性やそれに対する対処、保管方法等が書かれた「化学物質の取扱説明書」みたいなもの 「固体金属」は該当しない場合があるようですが、作ってくれている会社がありましたので紹介します
鉛 SDS:フルウチ化学株式会社さんより
http://www.furuchi.co.jp/info/MSDS_pdf/Pb_5.pdf
ブラス(黄銅) SDS 合金としてはなし
銅のSDS:フルウチ化学株式会社さんより
http://www.furuchi.co.jp/info/MSDS_pdf/Cu_6.pdf
亜鉛(粉末)のSDS:林純薬工業株式会社さんより
http://www.hpc-j.co.jp/pdf/msds/C8-17.pdf
タングステン SDS:フルウチ化学株式会社さんより
http://www.furuchi.co.jp/info/MSDS_pdf/W(piece)_2.pdf
順番に鉛から見ていきます。
毒性について、重要なところをまとめるとこんな感じ
・遺伝子に異常が出る可能性あり(奇形児等の可能性が上がる)
・発がん性が指摘されてる
・生殖機能に障害が出る可能性あり(男性では子種ができなく、女性では排卵異常の報告あり)
・その他、血を作る機能や神経、脳等様々なところへの毒性が指摘されている
うん
どう見てもやばい
それと、メタルジグをハンドメイドで作る方へ
蒸気圧 235Pa(@1000℃)
となっています。
この意味は、温度上げすぎると沸点(1750℃)以下でも微量ですが鉛の蒸気が出ます。(室温で水を置いておくと勝手に乾くのと一緒)
また、鉛蒸気の吸入は経口よりも人体への吸収率が5倍程度高いそうです
温度の上げすぎに注意し、必ず換気をしながら作業を行うようお願いします。
また、温度が低いほど蒸気は出にくいので、必要以上に加熱しないというのも重要です
鉛の場合、吸収率は低いようで、急性の中毒はなかなかならない模様。
日常的に摂取してしまうと、中毒症状が出てくるみたいです。
後、子供の場合、吸収率が高くなってしまうという話もあるようです。
間違っても子供が飲み込まないよう管理したいですね・・・
一応安全のためガン玉つぶすときは、プライヤー使ってくださいね!
後メタルジグ食べたり、箸にするのもやめましょうね!
続いてブラス
これは銅と亜鉛の合金の情報はないのでこの両方を見ていきます。
銅:重篤な中毒症状等はなさそうですね
亜鉛:表面に酸化被膜を作るため、金属の亜鉛としてのデータはない模様
体の必須元素ではあるものの、亜鉛を過剰摂取すると体に良くないとのこと。(不足も問題)
完全に安全とは言えないものの、そこそこの安全性はありそうです。
ただ、上でも述べたように、加工性を良くするために鉛が混ぜられている場合がありますので、注意!
最後はタングステン
警告と書いてあって、だめなんじゃないのかと思いますが、これ金属粉が目に入ったら危険ってことです
一応現時点では、飲みこんだりした場合の毒性についてもデータなしとなっていますので毒性は指摘されてませんね
安定な金属で、酸、アルカリにも強いので溶出する心配も少なそうです。
毒性をまとめると
鉛 × 毒性有
ブラス △ 毒性は低いが亜鉛の過剰摂取は危険 また鉛が混ざっている場合がある
タングステン ◎ 現状毒性の指摘なし。基本安全
こんな感じですね。
鉛の環境への影響
それでは鉛の環境への影響についてみていきます。
まず釣り以外の分野における鉛利用の歴史を簡単に見ておきます。
鉛は、加工しやすい為、水道管に利用されたり、ガソリンへ添加することで、走行性能を上げたりするのに利用されていました。
特に、ガソリンに添加されていたのは有機鉛で人体に吸収されやすく、公害にも発展した模様。
しかし、現在は上記のような毒性が指摘され、水道管への利用やガソリンへの添加は行われていません。(今のガソリンはたまに「無鉛ガソリン」って書いてありますよね)
では水辺について考えてみると、水質汚濁防止法により鉛を扱う工場からの排水にどれくらい鉛が入っていてはだめですよ という基準が定められている有害物質になります。この有害物質には、ほかに4大公害で有名なカドミウムや水銀等があります。
排出基準は0.1mg/L以下(毒物カレー事件で有名なヒ素と同レベル)という厳しい内容
環境省HP 鉛及びその化合物のリスク評価
https://www.env.go.jp/chemi/report/h22-01/pdf/chpt1/1-2-3-03.pdf
これは正直私もよくわからんかった!また勉強します!
とりあえず、こちらのP.7の表によると、淡水のほうが鉛の濃度が高く検出されていますね・・・多分水の絶対量が違いすぎる
更に鉛が水に溶けるのかという実験
巻末資料A:屋内・屋外実験及び現地調査結果より
http://www.env.go.jp/info/iken/result/h190124b/b_2_3.pdf
こちらから抜粋すると
1Tの鉛玉に水が触れていると、1年で36~73kgの鉛が溶け出す
これを多いと取るか、少ないと取るかはいろいろあると思いますが、私は多いと思いました。
特に、小さく流れ込みの少ない野池等で鉛のシンカーをロストし続けると、鉛濃度が濃くなる可能性があります。
そのうち魚の奇形が増える可能性も考えられます。
また野池とありますが、こういう場所って農業用水を貯めてたりしませんか?
鉛分が多い水で作られた米や野菜・・・安全ですかね?
また、水鳥等は砂利を砂のうに貯めて、消化を助けているようですが、砂のうに鉛のシンカーが入ると、常に鉛を摂取する状態となり、鉛中毒を発症します。
とりあえず、淡水で釣りをする場合は、できる限り鉛シンカーはやめたほうが良さそうです。
では海の場合はどうでしょう?
少し戻りますが、「環境省HP 鉛及びその化合物のリスク評価」 P.3に海中では塩化鉛や炭酸鉛を作るとあります。
これら(特に炭酸鉛)は非常に水に溶けにくい性質なので、淡水に比べると水量も相まって、影響は小さいといえるかと思います。
しかし、海といえども内湾だったりする場所で、定位するカサゴ、メバル等のロックフィッシュ類は移動をあまりしないため、鉛シンカーが多く沈んでいれば、鉛分を多く取り込んでしまう可能性が考えられます。
また、鉛の特徴のところで書きましたが、柔らかいためスタックしやすい。
鉛問題とは別になりますが、ラインを海中に残してしまいやすくなります。
プラスチックスマートが叫ばれる中、できるだけ根掛かりしないよう気を付けていきたいですね!
まとめ
・鉛は毒性が強いため、できるだけ使用を控えるべき
※ただし、ゲーム性としての比重の違いは非常に重要であるため、使い分けることが重要?
・ブラス、タングステン素材は環境負荷が小さいが、ブラスは鉛入りの場合があるため注意
余談ですが、一部のバストーナメント等では、鉛シンカーは禁止となっているそうです。
今後日本でもその動きが広がる可能性はありますので、注視していきたいですね
これからも、釣りが続けていける環境を守っていきましょう
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